文化の違いを感じたホームステイの体験

「留学」と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは語学学校や海外の大学生活かもしれません。けれど私にとって、最も印象深く、人生の価値観を変える体験となったのは、ホームステイでした。

学生時代、私はボストンで語学学校に通いながら、ボストン郊外の家庭にホームステイをしていました。ホストマザーは60代の優しいアメリカ人女性。最初は笑顔で出迎えてくれ、「これから素敵な異文化交流が始まる」と胸を弾ませていた私ですが、現実はそう甘くはありませんでした。

【文化の違いでぶつかった日々】
滞在して1週間ほど経ったある日、些細なことでホストマザーとの関係にひびが入りました。きっかけは、「シャワーの時間」と「食事のマナー」でした。

日本では毎日夜にお風呂に入り、ゆっくり過ごすのが当たり前。しかし、ホストファミリーの家では水道代や環境配慮から、シャワーは一日一回、10分以内というルールがありました。しかも「朝」に入るのが主流。夜にシャワーを浴びていた私に対して、ホストマザーが注意してきたのです。

また、食事中の沈黙や遠慮も、ホストマザーにとっては「無関心」に見えていたようです。日本人の私は「自分ばかり話しては失礼だ」と思い控えめにしていたつもりでしたが、「なぜ何も話さないの?」「食事中は会話を楽しむのがマナーよ」とストレートに言われ、ショックを受けました。

その時の私は、「どうして理解してくれないの?」「日本ではこれが普通なのに」と心の中で反発していました。正直、部屋で一人泣いたこともあります。

【英語以上に学んだ「違いを理解する力」】
けれど、時間が経つにつれて少しずつ考え方が変わっていきました。ホストマザーの厳しさの裏には、私のことを思っての本気の接し方があったのだと気づいたのです。

ある日、夕食後に一緒にテレビを見ていたとき、ホストマザーがこんなことを言ってくれました。

「あなたが頑張っているのは分かっているわ。でも、アメリカに来た以上、アメリカの文化にも少しずつ慣れていかないとね。」

その言葉は、まるで背中を押してくれるようでした。私は少しずつ、自分の価値観を押しつけるのではなく、相手の文化を尊重する姿勢を意識するようになりました。

会話も少しずつ増え、お互いの文化について話し合う時間もできました。日本の正月、アメリカのサンクスギビング、宗教の違い、食事の違い。すべてが私にとって新しい学びであり、視野を広げてくれるものでした。

【今、社会人になって思うこと】
社会人になった今、あのホームステイでの経験は、英語力以上に「異文化理解力」と「柔軟な対応力」を育ててくれたと実感しています。

会社では、海外のクライアントと接する機会もあり、文化の違いから誤解が生まれることもあります。でも、あの時ホストマザーと過ごした経験があるからこそ、「自分の常識は相手にとっての非常識かもしれない」という視点を常に持てるようになりました。

たとえば、相手の反応が冷たく感じても、「これは彼らの文化なのかもしれない」と一度立ち止まって考えるようになったのです。

【異文化に飛び込む勇気が、人生を豊かにする】
ホームステイは、ただ住まいを提供してくれるだけではありません。家庭の中でリアルな文化に触れ、自分の価値観を試される場所です。時にぶつかり、悩み、葛藤することもあります。けれどそのすべてが、将来必ず自分の財産になります。

あのとき、ホストマザーと本気で向き合ったことで、私は一回り成長できました。今思えば、「異文化の中で自分を見つめ直す」そんな貴重な時間だったと思います。

もし、これから留学を考えている方がいるなら、ぜひホームステイという選択肢を検討してほしいです。ホテルや一人暮らしでは味わえない、「本当のアメリカ」がそこにはあります。